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2024/07/08 06:00


7月8日、『エイリアン・コップ』のブルーレイが無事発売となりました。当初の発売より延期になりましたことを重ねてお詫び申し上げます。

  延期の理由は、画質の改善の難易度が、当初の予想をはるかに超えていたことにあります。

 権利元から提供された『エイリアン・コップ』のマスター素材は、画質が粗くピントも甘い箇所が多数あり、全編にわたり色も褪せていました。正直、『俺がハマーだ!』のSDマスターよりもはるかに状態が悪いものです。特に、ピントが合っていない部分の詳細がぼやけすぎていて、もともと何が映っていたのか不明な箇所も多々ある始末…。

  権利元に「もっと状態の良い別のマスターはないのか」と問い合わせたところ、「これしかない」との回答。果たして画質改善技術【Re;pic】をもってして、ブルーレイ化に十分な素材を生み出すことができるのか…? しかし映画史に埋もれた傑作である本作を、少しでも良い画質で皆様にお届けしたい! その一念で、Re;pic技術の開発元であるアシストさんに相談しました。元素材の状態をご覧いただいたところ、従来のRe;pic技術だけでは限界があるということで、遂にAI技術を導入することが決断されました。

  まずは「未体験ゾーンの映画たち2024」の上映用DCPの素材に取り掛かりました。スクリーンの大画面でご覧いただくことになるため、粗も目立つことになります。そのため、映像の輪郭が不自然になりすぎることを防ぐため、全体的にシャープを柔らかめにかけ、ピントが合っていない箇所は元の状態に近いまま残すことにしました。色も元素材に近いものとし、フィルムグレイン(フィルムで撮影したときに生じる細かな粒子)を乗せることで、一部残っている輪郭の不自然さを目立たなくし、ぱっと見の違和感が出ない画質にしました。

  劇場での上映では、昔っぽい素材、それこそ地方の劇場をまわっていた35mmプリントっぽい味わいは出ていましたが、家庭のモニタで観るブルーレイ用の画質としては物足りないのも正直なところ。

  ブルーレイ用には、アメリカ映画っぽい、パッキリとした色味と輪郭の、圧の強い映像にしたいと思い、再度のRe;pic作業を行うことにしました。

  ところが、それが地獄のはじまりになるとは…

  理想の色味と輪郭を目指し、まずはRe;picAIで以下の作業を行いました。

 ・全編にわたって甘い輪郭を際立たせる

・髪の毛や服の布地、壁や看板のロゴなど、ぼけてしまった詳細部分の再構築

・褪せた色をもとの色に復元

  ところが仕上がった映像は、色味は劇的に改善されたものの、上映用DCPの素材では目立たなかった粗が前面に出てきてしまいました。特に、もとからぼやけた箇所はAIが勝手な判断で画像を作ってしまい、奇妙な文字列や覆面のような顔、8ビット時代のゲーム画面のような背景が生まれてしまいました。そもそも、元のマスター素材でピントが合っていない部分の改善が、「すりガラスの向こうにある物体を再現する」ようなハードルの高いものだったことも原因だったと思います。さらに、思ったように輪郭が際立たず、理想とした映像にはまだまだの状態でした。

  次の段階は、手作業による修正しかないということで、おかしな映像の箇所を目視で洗い出します。AIでおかしくなった箇所は、個別にAIの効果を調整して自然な見え方に近づけますが、結果としてピントが甘くなることは避けられません。バキバキに輪郭が際立ってはいませんが観て違和感の少ない画像にはなりました。

  一方で、Re;picが本領を発揮したシャープなシーンも、肌の詳細が足りない、のっぺりした印象が残っていました。もう少しディティールを出したいと思っていたところ、アシストさんがある秘策による処理をした映像の提案がありました。見てみたところ、明らかにディティールが出ています。

 「これだ! この画質が欲しかったんですよ!!」 

  ということで、この映像ファイルで、最初からRe;picをやり直すことに。さらに、異なるパターンでレストアをかけたファイルを用意し、最も画質の良い箇所を切り張りすることで本編を一旦完成させました。

  ここで終了すれば、発売日はぎりぎり間に合ったのですが、まだ修正しきれない、映像の乱れた箇所が残っていました。問題と思われる箇所を再び目視で抽出し、手作業で修正することを数回繰り返しました。そして、ようやくブルーレイ用のHD素材を完成させました。

  現在、古い映画の権利状況が複雑になり、マスター素材も所在が不明な映画も増えています。今回の『エイリアン・コップ』のRe;pic実施は、ネガからのテレシネができずSD以前の素材しか残っていない映画を、ブルーレイ化や放送・配信に利用できるレベルに引き上げる、「未来のための試み」でもありました。

 今回さらなる進化を遂げたRe;pic技術により、ネガテレシネができない映画の旧素材を、遜色ないHD画質でどんどん甦らせることができればと思います。

  『エイリアン・コップ』ブルーレイの画質は、ネガ出し素材からリマスターしたHD画質には及ばないところもありますが、スタッフ一同ベストは尽くしました。ご理解のうえ楽しんでいただければ幸いです。

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